園長日誌
アタッチメントという言葉があります。
「誰かに特定の人にくっつきたいと強く思う心の傾向」を指して言います。それは代表的な存在として親であり、他にも祖父母や保育者ということにもなるでしょう。
小さな子どもにとって、不安が生じたとき、あそこに行けば慰めてくれる言わば「安全な避難所」であり、「安心の基地」として再びそこから出発できる存在です。
乳幼児期の安心感は信頼感や不信感を形成する重要な要因となり、その後の人間関係、つまり友だちや恋人との関係においても繰り返されると言われています。
では子どもと接する上で、私たちはどのようなことを気をつければよいでしょうか。
子どもは「転んで痛い」という感情と、「転んで悲しい」という感情はまったく別なものとして捉えています。ですから「大丈夫、痛い?」と寄り添うことで次第に「悲しい」という感情も連動してくるそうです。感情のラベリングと言います。
こうして知り得た感情を今度は別の子が同じ状態になったとき、「転んで悲しい」つまり、いたわりや思いやり、共感性として育まれていきます。
ですから、私たちはまず子どもの気持ちに寄り添ってあげること、子どもの気持ちを汲み取り言葉で語りかけることが重要です。
とはいえ、何でもかんでも寄り添えば良いかというと、気をつけなければならないことがあります。それは先回りをして何でもしてあげることです。「ヘリコプターペアレント」などと言われています。
転ばぬ先の杖として失敗させない、レールを敷いて人生を成功へと導こうとする、つまり過保護です。
子どもから自分に働きかけてきた時だけ手を差し伸べ、抱きしめて、声をかける。
言わば「子どもの応援団」であり、下支えする黒子になることが大切です。
毎年恒例となっている園長視察研修に行ってきました。
私が市私幼会長の時に始めたのですが、現会長も賛同していただき、しかも今年は一泊で群馬県の幼稚園を視察に伺いました。
「百聞は一見にしかず」という言葉通り、充実した視察研修となりました。
とても当園ではまねできない様々な実体験を可能にしている園がありました。
地域性をうまく活用していることはもちろん、理事長先生、園長先生の思いや熱意が伝わり、改めて私学の素晴らしさを感じることができました。
以前、東京のある園長先生の言葉が今も心に残っています。
「私学の良さは同じことをしている幼稚園がないということ。親にとって我が子に合うかなど選択できることが何よりも大切なことである。」
考え方は違ってもどの幼稚園も「子どもにとって何が大切か」、この問いを追い求めて子どもと向き合っているのではないでしょうか。我が園もそのひとつです。
我が子に合うかどうかは親にお任せするしかありませんが、限られた時間の中でいかに効率よく、ときに時間をかけて取り組むかを常に考えながら。
そろそろ来年度入園の保護者の方から、園見学の問い合わせがきていますので、少し当園についてお話しします。
幼児教育の手法は様々あり、例えばモンテッソーリ、シュタイナー、レッジョエミリア、ピラミッドメソッド、森の幼稚園、○○式など数えればきりがありません。
私も園長になる前、今日までの建学の精神や教育目標を踏襲しつつ、何か特色ある保育はできないか模索しました。
結局どれも一長一短あり、一つに決めることはできませんでした。むしろそれぞれの良さを保育の場面場面に生かすことはできないか、そんな取り組みを今も続けています。
ですからバランスよく取り組むことを大切にしています。
一つに固執すると何かを犠牲にしなければなりません。可能性の塊である幼児期の子どもたちにとって、一番大事なことはなんなのか考え抜いた結果です。
先日、近所の小学生が街探検でやってきました。
「幼稚園の一番自慢できることは何ですか」と聞かれ、少し考えてしまいました。
先生方の日ごろの取り組みを考えれば自慢できることばかりです。自画自賛かもしれませんが、本当によく勉強し創意工夫しています。
自慢ではないのですが、近年力を入れていることがあります。
それは子どもたち一人一人のポートフォリオです。
平成27年4月から子ども子育て支援新制度が始まり、以前より保育者を多く配置することができるようになりました。せっかく先生が増えたので今までできなかったことがしたいと思い、始めたのがフォトフォリオです。写真付きのポートフォリオなのでフォトフォリオと名付けました。
フォトフォリオは子どもの成長記録であり、ラーニングストーリーであり、先生と園児との関わりの記録です。写真付きなので子どもも見られますし、先生のコメントによって保護者も園での成長を感じることができます。
保護者の方には10歳になったとき、もう一度親子で見返してくださいとお願いしています。それは書いてある文章を読める年齢であるとともに、幼児期の自分の姿を思い出すタイムカプセルとなるからです。
そこには子どもなりの努力する姿があり、親以外に私を見つめる先生の姿があります。そして自尊感情を育むことができる、いわば宝物です。
外から見れば、英語講師も常勤していますし、体育教室やサッカー教室なども正課内で取り組んでいますので、早教育も充実しているように見えることでしょう。
でもしっかり育みたいのは社会情動性スキル(非認知能力)と言われる創造力、思いやり、決断力、忍耐力などであり、そのために何をすべきか常に求め、取り組んでいます。
いよいよ法案も可決され、ほぼ間違いなく10月より保育料の無償化が始まります。
多くの保護者にとって経済的負担が軽減されます。
しかしながら、「タダより高い物はない」何ていうことになりかねないことも。
現場の先生たちが一番心配しているのは「保育の外注化」「保育の長時間化」に拍車がかかることです。
「しつけは園に任せればいい」「家にいるより幼稚園にいた方が子どもも楽しんでいる」なんていう声を聞くことがあります。
任せていただくことも、園が楽しいこともありがたいことですが、残念ながらそううまくはいきません。
幼稚園での充実した幼児教育と親のまなざしが掛け合わさってようやくしなやかに生きる力の基礎が作られていきます。
親の社会性、貢献性は子どもの社会性を育みますから、我が子だけがうまく育つことはなく、我が子のみならず孫にまで影響が及びます。
幼児期の幸せな時間は次の世代への幸せのバトンとなり、親も子も人生最高の時間を過ごすことができるのです。
それが外注化、長時間化によって失われるだけでなく、次のような懸念が生じます。
1.親子の絆の弱い子は、友だちに対して興味をもたない。
2.自分が大切に愛され、受け止めてもらえている実感がないと、攻撃的で自らをコントロールする力(自己調整力)が育たない。
3.親からの関心や認めを感じられない子は、がんばっても自尊感情(自己肯定感)を持つことがない。
幼児期の子育ては本当に大変です。悪いとわかっていてもイライラして子どもに当たったり、放棄したり、夫婦げんかになったり・・・。
安心してください。永遠には続きませんから。必ず小学生、中学生と成長するにつれてあの頃は大変だったけど楽しかったなあと振り返ることができますよ。
花まつりはお釈迦さまの誕生を祝う仏事です。
本来は4月8日ですが、雪の多いこの地域では5月におこなうことが多いようです。
ですから平成最後の花まつりではなく、令和最初の花まつりになりました。
さて、お釈迦さまはお生まれになってあの名言を述べられました。
『天上天下唯我独尊』
天の上にも天の下にもただ私たち一人一人が尊い存在である。
皆が尊い存在ですから、皆で支え支えられなければならないと説かれたのです。
私だけが得をするとか、私だけが幸せであることはなく、あなたの喜びは私の喜び、あなたの苦しみは私の苦しみとおっしゃっています。
AI社会を生きぬく子どもたち。人間にしかできない能力の一つに「おもいやり(ホスピタリティー)」が挙げられます。
お釈迦さまの言葉を頼りに「おもいやり」のある大人になってほしいものです。
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